RAGとは?LLMの弱点を補う技術の仕組みと導入メリットを解説
- Yukaringo

- 1月14日
- 読了時間: 11分
更新日:1月15日
RAGとは?LLMの弱点を補う技術の仕組みと導入メリットを解説
※本記事は、アビココ株式会社が提供するサービスに関連する内容を含みますが、読者の皆さまに有益な情報をお届けすることを目的として執筆しています。
「ChatGPTに社内文書を学習させたい」—その発想、ちょっと待った
生成AIの業務活用が進むなか、「ChatGPTに自社のマニュアルや過去の稟議書を覚えさせて、問い合わせ対応を自動化したい」という相談をよく受けます。気持ちはよくわかります。でも実は、LLM(大規模言語モデル)に直接データを「学習させる」のは、コストも技術的ハードルも高く、多くの場合現実的ではありません。
そこで登場するのがRAG(Retrieval-Augmented Generation)です。簡単に言えば、「必要な情報をその場で検索して、LLMに渡してから回答させる」仕組み。学習し直すのではなく、必要な知識を都度引っ張ってくるイメージですね。
本記事では、RAGの基本的な仕組みから導入メリット、実装時の注意点まで、情報システム部門の視点で整理していきます。
RAG(Retrieval-Augmented Generation)とは何か
RAGは、Retrieval-Augmented Generation の略で、外部データベースなどの検索機能と大規模言語モデルの生成機能を組み合わせた技術です。
このアプローチは、2020年にMeta AI(旧Facebook AI)が提案した研究に端を発しており、LLMが内部に保持する固定的な知識だけに依存せず、外部の情報源を検索・参照することで、知識の更新性や事実性を補完する設計思想に基づいています。
従来のLLMとの違い
従来のLLM単体の場合、回答はモデルが学習済みの知識(パラメータ)のみに依存します。つまり、学習時点以降の情報は持っていませんし、企業固有のドキュメントや社内ルールといった非公開情報にもアクセスできません。
一方RAGでは、ユーザーの質問に対して以下のようなプロセスが走ります:
質問を受け取る
関連する情報を外部データソースから検索
検索結果をLLMのプロンプトに含めて回答生成
つまり、LLM自体は「汎用的な言語理解・生成能力」に専念し、知識の部分は外部データベースに任せる分業体制です。
なぜ今、RAGが注目されるのか—LLMが抱える3つの課題
生成AIが急速に普及する一方で、業務利用においてはいくつかの壁があります。RAGはそれらを解決できる可能性を持っています。
課題1:知識の鮮度問題(Knowledge Cutoff)
ChatGPTをはじめとする多くのLLMには「学習データの期限」があります。たとえば、最新の法改正や製品仕様、社内規程の変更には対応できません。
課題2:ハルシネーション(Hallucination)
LLMは「もっともらしい誤った情報」を生成することがあります。特に専門的な質問や、学習データに含まれない情報について聞かれた場合、事実でない内容を出力してしまうリスクがあります。
課題3:再学習コストの高さ
企業固有のデータをLLMに学習させるファインチューニングは、計算リソース・時間・コストの面で負担が大きい場合があります。データが更新されるたびに再学習が必要になるため、運用も困難です。
RAGは、これらの課題に対して「外部知識の動的な参照」という形でアプローチします。
RAGの仕組み:3ステップで理解する動作プロセス
RAGの基本的な動作は、以下の3ステップで構成されます。
Step 1:ドキュメントの準備とベクトル化
事前準備として、参照させたい社内文書・FAQ・マニュアルなどをベクトルデータベースに格納します。ここで重要なのが「ベクトル化(Embedding)」です。
ベクトル化とは、テキストを数値の配列に変換する処理で、意味的に似た文章は数学的に近い位置に配置されます。たとえば、「有給休暇の申請方法」と「年次休暇の取得手続き」は、表現は違っても意味的に近いため、ベクトル空間上で近い位置に配置されます。
Step 2:ユーザーの質問を検索クエリに変換
ユーザーが「今年度の経費精算ルールを教えて」と質問すると、この質問文もベクトル化され、データベース内で意味的に近い文書を検索します。キーワードマッチではなく、意味の類似度で検索するのがポイントです。
Step 3:検索結果をプロンプトに含めてLLMに渡す
検索で取得した関連文書を、LLMへのプロンプトに含めます:
以下の情報をもとに質問に答えてください。
【参考情報】
(検索結果のテキスト)
【質問】
今年度の経費精算ルールを教えてこのようにして、LLMは「与えられた文脈」をもとに回答を生成します。つまり、LLM自身が知識を持っているのではなく、必要な知識を都度参照する形です。
RAG導入のメリット:実務で活きる4つのポイント
1. 最新情報への対応
ベクトルデータベースに新しい文書を追加することで、LLMが最新情報を参照できるようになります。再学習は不要です。
2. ハルシネーションの抑制
回答の根拠となる文書を明示できるため、「この情報はどこから来たのか」を追跡可能です。出典を併記することで、業務利用における信頼性の向上が期待できます。
3. 企業固有データの活用
社内規程、過去の問い合わせ履歴、技術ドキュメントなど、非公開情報を活用できます。LLMの学習データに含める必要がないため、適切なセキュリティ対策を講じることで情報管理を行いやすくなります。
4. コスト効率
ファインチューニングと比較して、計算リソースやデータ準備のコストを抑えられる場合があり、運用面でも利点があります。
RAG構築の技術要素:押さえておくべき3つのレイヤー
実際にRAGを構築する際、以下の3つの技術レイヤーを理解しておく必要があります。
レイヤー1:Embeddingモデル
テキストをベクトル化するモデルです。代表的なものに以下があります:
モデル名 | 特徴 | 提供元 |
text-embedding-3-small / large | 現在の主流。 低コストかつ高精度。次元数の調整が可能で、大規模なRAG構築に最適。 | OpenAI |
text-embedding-ada-002 | 長らく標準だったモデル。安定性は高いが、現在は「-3」シリーズへの移行が推奨される。 | OpenAI |
multilingual-e5-large | 日本語を含む多言語に非常に強い。 オープンソースベースであり、独自のサーバーでの運用も可能。 | Microsoft / Hugging Face |
Cohere Embed v3 | RAGに特化した設計。検索意図の理解に優れ、ノイズの多い文書でも精度が落ちにくい。 | Cohere |
日本語対応の精度は年々向上しており、業務文書への適用も進んでいます。
レイヤー2:ベクトルデータベース
ベクトル化されたデータを高速に検索するための専用データベースです。
Pinecone:マネージドサービス、スケーラビリティに特徴
Weaviate:オープンソース、セマンティック検索に対応
Qdrant:Rustベース、高速動作が特徴
Chroma:軽量、開発環境での利用に適している
規模や運用体制に応じて選択する必要があります。
レイヤー3:LLM(生成モデル)
実際に回答を生成するモデルです。GPT-4、Claude、Geminiなど、用途やコストに応じて選択します。
RAG導入時の落とし穴:よくある課題パターンと対策
実際にRAGを導入した組織から聞かれる「想定外だった」ポイントを整理します。
課題パターン1:検索精度が期待より低い
原因:ドキュメントのチャンク(分割単位)が不適切、またはメタデータが不足している。
対策:
文書を適切なサイズに分割(一般的に200〜500トークン程度が目安とされる)
見出し、日付、カテゴリなどのメタデータを付与
ハイブリッド検索(ベクトル検索+キーワード検索)の併用を検討
課題パターン2:回答が冗長・的外れになる
原因:検索結果の上位N件をすべてプロンプトに含めているため、ノイズが混入している可能性。
対策:
類似度スコアで閾値を設定し、関連性の低い文書を除外
Re-ranking(再ランキング)モデルで検索結果を精査
プロンプトエンジニアリングで「参考情報の使い方」を明示
課題パターン3:運用が回らない
原因:ドキュメント更新フローが整備されていない、データ品質管理が属人化している。
対策:
ドキュメント登録・更新の運用ルールを策定
定期的な精度モニタリングとフィードバックループの構築
データ管理担当者の明確化
ケーススタディ:RAGが効果を発揮する業務シーン
シーン1:社内ヘルプデスクの自動応答
従業員からの「経費精算の方法は?」「休暇申請の手順は?」といった定型的な問い合わせに対し、RAGを活用したチャットボットで一次対応。過去のFAQや社内規程を参照し、回答を提供できます。
シーン2:技術ドキュメント検索の高度化
開発部門における「この機能の実装方法は?」「過去の障害対応事例は?」といった問い合わせに対し、膨大な技術ドキュメントから関連情報を抽出。エンジニアの情報探索時間の削減が期待できます。
シーン3:契約書・法務文書のレビュー支援
契約書のチェック時に、過去の類似契約や社内ガイドラインを参照しながら、リスク条項の確認や文言の妥当性を検証。法務担当者の業務効率化に貢献する可能性があります。
RAG実装の選択肢:内製 vs SaaS vs 専門ベンダー
RAGを実装する方法は大きく3つに分かれます。
選択肢1:フルスクラッチでの内製
メリット:カスタマイズが可能、データガバナンスを自社でコントロールできる
デメリット:技術的ハードルが高い、運用負荷が大きい
適している組織:AI/ML専門チームを持ち、独自要件が強い場合
選択肢2:RAG対応SaaSの利用
メリット:導入が早い、運用負荷が比較的低い
デメリット:カスタマイズ性に限界がある場合がある、データの外部保存に対する検討が必要
適している組織:まずはスモールスタートで効果検証したい場合
選択肢3:システム開発ベンダーへの委託
メリット:要件定義から実装・運用まで一貫してサポート、既存システムとの統合も可能
デメリット:初期コストがかかる
適している組織:既存業務システムとの連携が必要、長期運用を見据えている場合
RAG導入のロードマップ:段階的アプローチの推奨
いきなり全社展開するのではなく、段階的に進めることをお勧めします。
Phase 1:PoC(概念実証)(1〜2ヶ月目安)
限定的な用途(特定部門のFAQなど)で小規模に実装
精度・応答速度・ユーザー満足度を評価
技術的課題と運用課題を洗い出し
Phase 2:パイロット展開(2〜3ヶ月目安)
対象部門・ドキュメントを拡大
ユーザーフィードバックを収集し、チューニング
運用フローの確立
Phase 3:本格展開(3ヶ月〜)
全社展開または複数部門への横展開
モニタリング体制の構築
継続的な改善サイクルの運用
セキュリティとガバナンス:企業利用で押さえるべきポイント
RAGを業務利用する際、情報セキュリティとデータガバナンスの観点は重要です。
チェックポイント1:データの保存場所
ベクトルデータベースの配置場所(オンプレミス/クラウド)の検討
LLM APIへの通信の暗号化
ログの保存期間と管理方法
チェックポイント2:アクセス制御
ユーザーごとに参照可能なドキュメントを制限する仕組みの検討
機密情報を含む文書の取り扱いルールの明確化
チェックポイント3:監査証跡
誰がいつどんな質問をしたか、ログとして記録する仕組み
回答の根拠となった文書の追跡可能性
参考:主要なRAGフレームワークとツール
実装を検討する際の参考として、代表的なオープンソースフレームワークを紹介します。
LangChain:RAG構築で広く利用されている、豊富なコンポーネントを持つ
LlamaIndex:ドキュメントインデックス作成に特化、使いやすさが特徴
Haystack:エンタープライズ向け、プロダクション運用を意識した設計
これらはPythonベースで、比較的検証環境を構築しやすいとされています。
まとめ:RAGは「学習」ではなく「参照」の発想
RAGは、LLMに知識を「教え込む」のではなく、必要な情報を「その場で渡す」アプローチです。この発想の転換が、生成AIの業務活用を進める上での選択肢の一つとなっています。
重要なポイントを整理すると:
RAGは外部知識を動的に参照することでLLMの課題を補完する技術
最新情報への対応、ハルシネーション抑制、企業固有データ活用が期待できる
技術要素はEmbedding、ベクトルDB、LLMの3層構造
導入時は検索精度、プロンプト設計、運用体制の整備が重要
段階的な導入とセキュリティ対策の検討が推奨される
生成AIを「試してみた」から「業務に組み込む」フェーズに進むとき、RAGは検討すべき技術要素の一つです。

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RAGの導入を検討する際、技術選定から実装、既存システムとの統合まで、検討すべき要素は多岐にわたります。
アビココ株式会社では、システム開発・業務システム構築の実績をもとに、RAGを活用した業務システムの設計・実装支援を行っています。たとえば以下のようなケースでご相談いただけます:
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参考文献
※本記事は2026年1月時点の情報をもとに作成しています。技術仕様や製品情報は変更される可能性がありますので、導入検討時は最新の公式情報をご確認ください。







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