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【2025年最新】AIガバナンスとは?情報システム部門が今すぐ取り組むべき実践ガイド

  • 執筆者の写真: Yukaringo
    Yukaringo
  • 58 分前
  • 読了時間: 13分
AIガバナンスとは?情報システム部門が今すぐ取り組むべき実践ガイド

【2025年最新】AIガバナンスとは?情報システム部門が今すぐ取り組むべき実践ガイド

※本記事は、アビココ株式会社が提供するサービスに関連する内容を含みますが、読者の皆さまに有益な情報をお届けすることを目的として執筆しています。また、一般的な情報提供を目的としており、法的助言を行うものではありません。


📌 この記事でわかること

  • AIガバナンスの基本概念と必要性

  • 情報システム部門が直面する7つの課題と具体的な対策

  • 日本とEUの最新法規制(AI事業者ガイドライン、EU AI Act)

  • 6ステップで進めるAIガバナンス構築の実践手順

  • NTTデータ・NEC・りそなHDの先進企業事例

  • 今日から始められる3つの具体的アクション


はじめに:社内の「野良AI」、把握できていますか?

「誰がどこでAIを使っているか、完全に把握していますか?」

この質問に自信を持って「YES」と答えられる情シス担当者は少ないはずです。

営業がChatGPTで提案書を作り、人事がAI面接ツールを試し、マーケが画像生成AIで広告を量産している…。こうした管理されていないAI利用(俗に「野良AI」と呼ばれます)は、情報漏えいや著作権侵害などのリスクを生みます。


野村総合研究所の2024年調査では、「AIのリスク管理が難しい」と答えた企業が61.4%に上りました。2025年調査(2025年11月25日発表)では48.5%に減ったものの、「スキル不足」と答えた企業は70.3%に達しています。AI活用は進んでも、安全に使う体制づくりは遅れているのです。


結論:AIガバナンスは「リスクを減らし、競争力を高める」経営戦略です。 正しく構築すれば、安心してAIを使え、顧客の信頼を得て、イノベーションを加速できます。


本記事では、情シス担当者向けに、AIガバナンスの基礎から実践手順、法規制、企業事例まで解説します。


1. AIガバナンスとは?——従来のIT管理との違い

1-1. AIガバナンスの定義

AIガバナンスとは、AIを安全かつ効果的に使うための管理の仕組みです。

従来のITシステムは「プログラム通りに動く」ので予測できました。しかしAIは「学習したデータ次第で動きが変わる」ため、予測が難しく、思わぬ判断ミスや差別が起きる可能性があります。だからAI専用の管理方法が必要なのです。


【具体例】

  • 採用AIが特定の属性(性別など)に不利な判断をしてしまう(学習データに偏りがあった)

  • チャットボットが機密情報を漏らす(学習時に社内文書を使っていた)

  • 画像生成AIが他社の著作物に似た画像を作る(著作権侵害リスク)


1-2. なぜ今、AIガバナンスが必要なのか?

(1)誰でもAIを使える時代になった

ChatGPTなどの登場で、エンジニアでない一般社員もAIを使うようになりました。ITスキルにバラつきがある中で使われるため、リスク管理が追いつかない状況です。


(2)法律・ルールが次々にできている

日本: 2024年4月に政府が「AI事業者ガイドライン」を公表。「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」それぞれの責任を明確化しました(2025年3月に最新版に更新)。

EU: 2024年8月に世界初のAI規制法「AI Act」が発効。グローバルでAI規制が急速に進んでいます。


(3)一度の失敗が会社の信頼を失う

AIによる差別、情報漏えい、著作権侵害が起きれば、顧客や取引先の信頼を一気に失います。ブランド価値の毀損は取り返しがつきません。


2. 情報システム部門が直面するAIガバナンスの課題

実際に企業がAIガバナンスを構築する際、どのような課題に直面するのでしょうか。代表的な7つの課題を整理します。


課題1:責任範囲の不明確さによる「たらい回し」

AIの活用には、IT・デジタル部門、現場部門、法務部門、リスク管理部門など多くの担当者が関わります。関係者が多い一方で、責任範囲がはっきりせず対策が進まないケースがあります。

【対策】

経営層直下にAIガバナンス推進組織を設置し、部門横断的な責任者を明確化することが重要です。情報システム部門がハブとなり、法務・リスク管理・現場部門との連携体制を構築しましょう。


課題2:ガバナンス体制の形骸化

体制が形だけで運用の仕組みがないため、整備した規定類・ルールが活用されないケースが見受けられます。

【対策】

AIガバナンス推進部門がAIプロジェクトごとにリスク評価・モニタリングを必ず実施し、その結果を現場へフィードバックする仕組みを運用手順として定着させることが重要です。


課題3:技術進化への追従困難

AIは日進月歩で進化しており、新たな技術やリスクが次々と登場する中、ガイドラインや評価基準がすぐ陳腐化してしまう恐れがあります。

【対策】

国内外のAI技術やリスク、法規制の最新動向について、AIガバナンス推進部門やIT・デジタル部門のみならず法務部や広報、リスク管理部門などと連携して情報を収集・分析し、定期的に社内で共有する仕組みを整備することが欠かせません。


課題4:既存のリスク管理体制との整合性

情報セキュリティ、個人情報保護、知的財産管理など、既存のガバナンス体制とAIガバナンスをどう統合するかという課題があります。

【対策】

セキュリティやプライバシー、法令など、AIリスクは他のリスクテーマと密接にかかわっているため、AIガバナンスを個別最適で進めるのではなく、ガバナンス横断での全体最適を実現する必要があります。


課題5:現場の反発と理解不足

一部の企業では、「面倒なルールが増えた」「イノベーションの足かせだ」という現場からの反発が起きることがあります。

【対策】

AIガバナンスは「規制」ではなく「安全にイノベーションを推進するためのガードレール」であることを理解してもらうための教育・啓発活動が重要です。


課題6:リソース不足(人材・予算・時間)

専門知識を持つ人材の不足、予算の制約、経営層の理解不足により、十分なリソースを確保できないケースが多くあります。

【対策】

スモールスタートで重要度の高いユースケースから段階的に取り組み、成功事例を作って経営層の理解を得ることが有効です。


課題7:グローバル対応の複雑さ

EU AI Actをはじめ、各国・地域で異なる規制への対応が求められます。規制の差異を理解し調整する負担が発生します。

【対策】

グローバル共通のベースラインを設定しつつ、各国固有の規制に対応する柔軟な体制を構築することが必要です。


3. 日本のAIガバナンス政策の全体像

3-1. 人間中心のAI社会原則(2019年)

日本のAIガバナンスの土台となるのが、2019年3月に決定された「人間中心のAI社会原則」です。この原則では、人間中心、プライバシー確保、セキュリティ確保、公平性・説明責任・透明性など7つの原則が示されています。


3-2. AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン Ver. 1.1(2022年)

経済産業省は2022年1月に「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン Ver. 1.1」を公表しました。このガイドラインは、環境・リスク分析→ゴール設定→システムデザイン→運用→評価→環境・リスクの再分析という継続的な改善サイクル(アジャイル・ガバナンス)を回す仕組みを採用しています。


3-3. AI事業者ガイドライン(2024年・2025年)

2024年4月19日に総務省と経済産業省が「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を公表し、2025年3月28日には第1.1版が公表されました。これは、既存のガイドラインを統合・アップデートしたものです。

【AI事業者ガイドラインの3つの特徴】

特徴

内容

①対象者の明確化

AI開発者、AI提供者、AI利用者の3つの立場ごとに義務を整理

②リスクベースアプローチ

AIのリスクレベルに応じた段階的な対応を推奨

③Living Document

技術や社会の変化に応じて継続的にアップデート

3-4. AIセーフティ・インスティテュート(AISI)の設立(2024年2月)

2024年2月14日、内閣府をはじめ関係省庁、関係機関が協力し、AIの安全性の評価手法の検討等を行う機関として「AIセーフティ・インスティテュート」(AISI)がIPAに設立されました。AISIは「AIセーフティに関する評価観点ガイド」を公開し、有害情報の出力制御、公平性、プライバシー保護、セキュリティ確保といった観点を評価の重要項目として示しています。


4. EU AI Actの概要と日本企業への影響(グローバル規制)

EU AI Act(人工知能規則)は、2024年8月1日に発効し、世界で初めてAIシステムをリスクに応じて規制する法律です。この規制は、日本企業にとっても無関係ではありません。


4-1. 日本企業への域外適用

EU域内に物理的な拠点を持たない日本企業でも、以下の場合にはこのAI Actが適用されます。

  • EU市場にAIシステムを上市(販売・提供)する場合

  • AIのアウトプット(出力結果)がEU域内で利用される場合


つまり、以下の日本企業はAI Actへの対応が求められます:

  • EUに顧客や取引先を持つ企業

  • EU向けにソフトウェアやAI機能を提供している企業


重要ポイント:物理的な拠点の有無ではなく、「サービスの提供先」や「AIの出力が使われる場所」で適用が判断されます。


4-2. 段階的な適用開始と高額な制裁金

AI Actの規制は段階的に適用されます。2025年2月2日から禁止AIに関する規定等が適用開始されており、2025年8月2日には一般目的AI(GPAI)モデルへの義務、そして2026年8月2日には高リスクAIシステムへの主要な規制が適用される予定です。違反した場合の制裁金は非常に厳しく、最大で全世界年間売上高の7%または3500万ユーロ(約63億円:2025年12月15日現在の情報に基づく)のいずれか高い方が科される可能性があります。


4-3. 日本企業が今すぐすべきこと

グローバル展開している、または将来的にEU市場を検討している日本企業は、施行に向けて以下を実施すべきです。

  • AIマッピングとリスク分類: 自社が利用・提供するAIがAI Actの規制対象(特に「高リスクAI」)に該当するかを確認し、分類する。

  • 遵守事項の特定: 施行スケジュールに合わせ、それぞれのAIについて遵守すべき要件を特定し、対応計画を策定する。


5. AIガバナンス構築の実践ステップ

ここからは、AIガバナンスを構築する具体的な手順を「アジャイル・ガバナンス」の考え方に基づいた6ステップで解説します。


ステップ1:環境・リスク分析

AIシステムの棚卸し(AIマッピング)を行い、潜在的なリスク(プライバシー侵害、差別、著作権侵害など)を洗い出します。


【チェックリスト】

  • [ ] 社内で使われているAIツールを全て把握していますか?

  • [ ] 各AIの用途と利用者を明確にしていますか?

  • [ ] AIが扱うデータの種類を把握していますか?


ステップ2:ゴール設定

分析結果をもとに、AI活用の可否を判断し、自社の理念と整合するガバナンス・ゴールを定めます。(例:「セキュリティを担保した上で、生成AIで業務生産性を30%向上させる」)


ステップ3:システムデザイン

ガバナンス・ゴールを達成するための組織体制、AI利用ポリシー、リスク評価フレームワーク、承認プロセス、モニタリング体制を設計します。


ステップ4:運用とモニタリング

実際にAIシステムを運用しながら、AI判断の正確性・公平性、セキュリティインシデント、法規制の遵守状況などを継続的に監視し、問題を早期発見します。


ステップ5:評価と改善

運用状況を継続的にモニタリングし、リスク評価や改善を実施します。定期的(四半期ごとなど)にAIガバナンスの実効性を評価し、PDCAサイクルを回します。


ステップ6:環境・リスクの再分析

技術の進化、法規制の変更、社会の受容性の変化などを踏まえ、再度リスク分析を行い、必要に応じてゴールや体制を見直します。


※6ステップすべてを一度に実施する必要はありません。

まずはステップ1と2だけでも十分な第一歩です。


6. 先進企業のAIガバナンス事例

事例1:NTTデータ — グローバルAIガバナンス体制の構築

NTTデータは、AIリスク管理を所掌する専任組織としてAIガバナンス室を設置しました。その後、技術、法務、知財、情報セキュリティといった部門の知見を集約するため、関連各部のメンバーも集めコーポレートスタッフ部門へ配置を転換。海外グループ各社との連携も強化し、グローバル全体でのAIリスクマネジメントの枠組み策定や実装を推進しています。(2024年4月時点の情報に基づく)


事例2:りそなホールディングス — NTTデータとの共創

NTT DATAは、りそなホールディングスと共創し、既存の社内規定との整合性に配慮した実効性のあるガイドラインを策定しました。さらに、AI開発者だけでなく、一般の従業員も対象とした、基礎的な知識習得のための教育コンテンツを整備しています。


事例3:NEC — アジャイル・ガバナンスの実装

NECは2023年4月時点のプレスリリースによると、経済産業省の「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン」のアジャイル・ガバナンスの枠組みに対応したガバナンス体制と全社規程を設計し、運用を開始しています。これは、AI特有の常に変化する環境とゴールを踏まえ、継続的な改善を仕組み化する取り組みです。


7. AIガバナンス構築における「よくある失敗」と回避策

  • 失敗1:トップダウンのみで現場が動かない

    • 【回避策】ボトムアップの声も拾い上げ、現場の課題やニーズに寄り添った仕組みを作ることが重要です。

  • 失敗2:完璧を目指して何も進まない

    • 【回避策】まずは暫定版のルールを作り、運用しながら改善していく「アジャイル・ガバナンス」のアプローチを採用しましょう。

  • 失敗3:ガイドラインを作っただけで満足

    • 【回避策】実務で使いやすいチェックリスト、FAQ、事例集などを整備し、継続的な教育・啓発活動を行いましょう。

  • 失敗4:ITだけで抱え込む

    • 【回避策】法務・リスク管理・現場業務の視点が不可欠です。部門横断的なプロジェクトチームを編成し、各専門家の知見を結集しましょう。


8. AIガバナンスのメリット:なぜ今取り組むべきか

AIガバナンスを構築することで、企業は以下のような具体的なメリットを享受できます。

  • リスクの可視化と最小化: 情報漏えい、差別、著作権侵害などのリスクを体系的に把握し、インシデント発生の可能性を大幅に低減できます。

  • ステークホルダーからの信頼獲得: 透明性の高い体制を整備することで、顧客、取引先、投資家、規制当局からの信頼を獲得できます。

  • イノベーションの加速: 適切なガードレールがあることで、社員は安心してAIを活用でき、イノベーションが加速します。

  • 競争優位性の確保: ガバナンスが整っている企業は、大手企業からの取引条件や入札要件を満たしやすく、ビジネスチャンスが広がります。


9. 情報システム部門が今日から始められる3つのアクション

最後に、情報システム部門の担当者が今日から始められる具体的なアクションを3つ提示します。


アクション1:AIマッピングの実施

まずは、社内で利用・開発されているAIツール・サービスの全容を把握しましょう。各部門にアンケートを実施し、利用しているAIツール名、用途、利用者数、扱うデータを収集し、一覧化することが第一歩です。


アクション2:簡易版AI利用ガイドラインの作成

完璧を目指さず、まずは1ページの簡易版ガイドラインを作成し、全社に展開しましょう。禁止事項(機密情報の入力禁止など)や、推奨事項(出力結果の確認、ファクトチェックの実施など)を簡潔にまとめます。


アクション3:経営層への提案資料作成

AIガバナンスの必要性を経営層に理解してもらうための提案資料を作成しましょう。現状のリスク(野良AI利用の実態)や法規制動向(EU AI Act、AI事業者ガイドライン)を具体的に示し、自社が取るべきアクションと期待される効果を訴求します。


まとめ:AIガバナンスは「守り」ではなく「攻め」の戦略

AIガバナンスは、単なるリスク管理や法令遵守ではありません。適切に構築すれば、安心してAIを活用し、イノベーションを加速させ、ステークホルダーからの信頼を獲得し、競争優位性を確保する「攻めの戦略」になります。


情報システム部門の担当者には、技術的な知見だけでなく、経営視点、法務視点、リスク管理視点を統合し、組織全体を巻き込んでAIガバナンスを推進するリーダーシップが求められます。完璧を目指す必要はありません。まずは小さく始めて、運用しながら改善していく「アジャイル・ガバナンス」のアプローチで、一歩ずつ前進していきましょう。


アビココ株式会社は、お客様のビジネスに最適なAIシステムの企画・開発から実装までを一貫してサポートできるシステム開発のエキスパートです。貴社のAI活用を安全かつ効果的に推進するパートナーとして、アビココがお手伝いします。まずはお気軽にご相談ください。


参考文献

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